~龍ヶ崎のビジネスホテルグループ~

 

【ゲスト社長】株式会社アイエスケー  宮本和裕さん

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失敗から学んだ成功と絆

今回ご登壇いただいたのは、平成3年に創立し、龍ヶ崎市内で5店舗のホテルを運営するビジネスホテルグループ「株式会社アイエスケー」宮本和裕さん。

現在はビジネスホテルのほか、そば居酒屋『四季亭』、駅そば『四季蕎麦』、つくば市にある中華屋『大阪王将』を展開しています。

宮本さんは地元の高校を卒業し、大学卒業後は日清食品の営業職として入社、量販店の本部営業として大阪の本社で勤務していました。11年間サラリーマン生活の後、平成10年のプラザホテルの開業を機に龍ヶ崎に戻り、ホテルの経営を始めました。

まだホテルが1店舗しかなかった頃、宮本さんは新しい事業を始め1億円近い借入れを抱えてしまいました。その時の経験が今に活かされ、成功につながっています。

それはどんな事業で、どう今に活かされているのでしょうか?

■母親の思いつきで始まったホテル事業

私の母親は佐貫駅前で不動産業を営んでいて、当時土地の有効利用を考えていました。その時に、ホテルは需要があることを調べていたんです。

母親はイケイケの性格で、みんなが止めるのも聞かずにやっちゃう人。いつの間にかやる方向になっていて、誰がやるのか、どういうふうにやるのか、全然決まっていないうちにホテルの図面が出来上がっていました。

 

いざオープンするという段階になって、同じく不動産を経営していた兄から「ひとりではやりきれないから、帰ってきて欲しい」と相談されました。私も当時脱サラを考えていたところでしたので、「俺がやる」と言って、経営をすることになりました。

 

 

■「ホテルのことを何も知らないんだから、ここで研修せえ」

ホテル業を始めるために退職することを上司に告げた当日、上司に「宮本、ついてこい」と言われ、大阪のあるホテルに連れて行かれました。

そこで突然、「宮本、お前はホテルのことを何も知らないんだから、ここで研修せえ」と言われました。

 

そのホテルは上司の元同期の方が経営するホテルで、上司が社長に話をつけてくれ、研修させてもらえることになったのです。それは本当に有難かったですね。

それから2~3ヶ月くらいは、会社の仕事が終わってからホテルに行き、運営や裏方の仕事、帳簿の書き方などを教えてもらいました。

当時を思い返しても、素晴らしい上司に巡りあえたと感謝しています。

 

 

■大手ホテルチェーンとの価格競争

現在5店舗あるホテルのうちの4店舗は、もとはオーナーがいらっしゃったホテルです。ホテル業界が電話予約からネット予約に変わっていく過渡期のなかで、流れについていけず苦労されていたホテルを買い取りました。

 

現在ビジネスホテル業界でチェーンホテルが占める割合は全体の40%で、地場のホテルが少なくなってきています。圧倒的な資本力のある大手が参入すると地域の価格が崩壊してしまい、地場のホテルはやっていけない。

大手の参入を防ぐためにも、買い取る必要がありました。

 

龍ヶ崎にホテルがあるのは意外に思われるかもしれませんが、各工業団地やゴルフ場など、すべての送迎バスは佐貫に着くので、宿泊の需要があります。また、各工業団地に行ったお客様が佐貫に帰ってきて、また宿泊されます。

 

 

■流通経済大学との連携

ビジネスだけでなく、スポーツ試合の需要もあります。龍ヶ崎にある流通経済大学はラグビーやサッカーの名門なので、毎週、各大学やプロチームが試合のために龍ヶ崎を訪れます。その際に弊社のホテルを使っていただいています。

また、流通経済大学のサッカー部は子どもたちの指導をしていて、色々な高校を呼んで練習試合をしたり、アディダスカップという年に1回の試合では200数十名の高校生を集めるなど、サッカーの普及に力を入れています。弊社も値段をサービスするなど、協力をしています。

 

 

■食事を宣伝材料に

 

プラザホテル以外は、ビジネス客というより工事業者の職人をターゲットにしています。素泊まり5000円、食事は朝食・夕食とも500円で提供しています。

 

工事関係のお客様は、年間の大半を出張し、日本全国の様々な施設の設備工事をしています。そういったお客様が求める食事はご馳走ではなく、家庭料理。ホッとするような料理をお出しできたらと思い、おばちゃんがつくった家庭料理を提供することにしました。

お食事は500円ですが、1000円くらいの料理を提供しています。そうするとお客様が他の職人仲間に広めてくれる。原価で500円かかっていますが、宣伝と考えれば500円くらいの値引きは普通にしているわけですよね。食事をウリにして、口コミでお客様に広めてもらおうと考えました。

 

また、プラザホテルにあるレストランも、ランチは宣伝と考えています。一時期ランチの時間帯は閉めていましたが、ホテルの1階が閉まっているとイメージが凄く悪い。しかし昼が賑わうと、夜も人が入ってきます。そのためランチは夜につなげるための宣伝と考え、営業することにしました。

 

 

■シニア層を中心とした人材の採用

現在社員を含めスタッフは140人おり、そのうちホテルの社員は3人。フロント業務は全員65歳以上で、率先して高齢者を採用しています。高齢者はホテル業界に合っていると思います。「若い頃、ホテル業界で働くのが夢でした」という方もいらっしゃいます。

皆さん経験も豊富なので、例えば九州から来たお客様には「私も若い頃九州で働いていたんですよー」とか、ゴルフのお客様に対しては「龍ヶ崎カントリーゴルフというところが有名なんですよ」など、自然とお客様とのコミュニケーションができます。

私は、リタイアした定年退職の方は宝の山だと思っています。

 

課題は情報の共有。5店舗のホテルが分散してしることもあり、いろいろなソフトを導入して瞬時にクレームや問い合わせの指示などを発信できるようにしていますが、全員が使いこなせるわけではないので、何度も挫折しています。

一度、webで給与明細を発行したことがありましたが、毎回「パスワードが分からないです」とか「私ガラケーなんです」という問い合わせばかりになって、結局、紙に戻しました。

■ラーメン事業での失敗経験

ホテルが1店舗しかなかった頃ですが、新規事業でフランチャイズのラーメン事業を始めたことがありました。

1店舗しかないので、このままではスタッフにポジションも与えられないし、給料も上げられない。何か新しい事業はないかと探していたところで、ラーメン店のフランチャイズの話がきました。

当時はフランチャイズブームだったこともあり、たまたま食べに行って美味しかったラーメン店のフランチャイズを始めました。

そのうえ当時は爆発的なラーメンブームで、コンビニでもラーメン本が即完売するような人気。どんな店でもオープンしたら行列ができていました。みんなラーメンを食べに来ているというより”情報”を食べに来ている感じで、オープンしたらその店の情報がネットで一気に拡散される時代でした。

当時の売上は20坪のラーメン店で月に1,200万円。それも全部現金です。「もうホテルやめよ」と思いましたよ。

つくばに2店舗目を構えたときは絶対儲かるという確信があって、調整区域で下水道も完備されてない雑木林だった場所に目をつけました。開発許可を取って雑木林を伐採し、下水道は国道の下を貫通させ、4,000万円くらいかけました。でも「ぜんぜん大丈夫」という確信があったんです。つくば店は月に1,500万円以上売上げました。今では恥ずかしい話ですが「俺、もうラーメン王になっちゃおう」なんて思いましたね。

いま、その場所は『大阪王将つくば店』として運営しています。

 

その頃から少しずつおかしくなり始めていて、ラーメンブームも去り、「情報」を食べに来ていた人もいなくなって、売上が減りはじめました。そのとき気づけばよかったのですが私もブームに踊らされ、新しく店舗を構えれば売上をカバーできると思ったんです。

 

3店舗目は守谷店で2,500万円くらいの土地した。しかしオープンしてすぐに「これはやってちゃダメだ」と気がつき、1年で閉めて居抜きで売却しました。結局、1年で1店舗ずつ店を作っていたため1億円近い借入れになっていました。ホテルの売上をラーメン店につぎ込んでいたのでスタッフに合わせる顔がなく、その時は人生のど壷でしたね。

本当に、30歳くらいから40歳半ばまでは眠れない日々で辛かったです。

 

その経験もあって、最近始めた駅そば『四季蕎麦』は何の宣伝もしないでオープンさせました。昔はオープンしたら一気に呼んで、オペレーションも構わずやっていましたが、いまはスタッフが慣れてくる頃にピークが来るように、少しずつ宣伝しています。

 

 

 

■それぞれのニーズにあったコンセプトづくり

成功した点では、ホテルごとのコンセプトづくりは上手くいっていると感じています。

ビジネス客、工事業者、価格重視など、ホテル毎に特徴を持たせ、スタッフにもそれぞれのコンセプトにあったホテルを案内するように指導しています。

例えば女性のお客様から予約の電話があったからといって、工事業者向けの『大京』に宿泊させたり、高齢者にエレベーターのない『さぬきシティホテル』を入れてしまったらクレームになってしまいます。ミスマッチはクレームにつながりますから、予約の段階で声のトーンや話し方で、工事の方かビジネスマンか判断してホテルを紹介するように指示しています。

 

 

■成功を積み上げて、スタッフとの絆を深めたい

ラーメン事業で雇っていたスタッフの大半は、いまでも一緒に働いています。自分たちで考えて、スタッフと一緒に小さくてもいいから成功事例を共有していきたいと思っています。

フランチャイズビジネスをするより、試行錯誤しながら自分たちでやっていったほうが絆も深まるし、やりがいがあります。

 

今後は、部署毎に責任者を置いて人材を育てて仕組みをつくり、組織づくりをしていきたいと思っています。

 

 

 

失敗は必然?

「ベンチャービジネスにとって、成功は例外」と語るセンター長の吉田さん。

吉田さんも29歳で事業を始め、43歳で廃業した経験があり、1億円ほどの借金が残りました。

廃業当時、「なんで失敗したんだろう?どうして上手くできなかったんだろう?」と考え続けた吉田さん。その時ベンチャービジネスのバイブルと呼ばれているジェフリー・A ティモンズの著書『ベンチャー創造の理論と戦略』に出合います。

ティモンズは「多くの場合ベンチャーは失敗する」と述べています。その時吉田さんは納得し、「誰もやったことのないことを始めて、3~4年で急成長して、上場までもっていったなんて、ほんま例外やな」と腑に落ちたといいます。

マーケティングにおいて、企業のライフサイクルは導入期・成長期・成熟期・衰退期と4つのサイクルに分かれており、その長さは全て同じだといいます。つまり、導入期が短く1年しかかからない商売は4年しか持たないということになります。

 

 

■成功は、自分の失敗からしか学べない

自分の失敗には痛みがあり、「痛み」と「原因」がセットになってノウハウになる。と吉田さんは語ります。

失敗が経営者を育て、強くしていく。ラーメン事業の経験を乗り越え、ホテル事業を大きく展開していく宮本さんのお話は、困難を乗り越えて成長していこうとする起業家の背中を押してくれる、とても貴重な機会になりました。

ファシリテーター:フリーアナウンサー 高木圭二郎

写真・レポート:JAMWorks 宇津井志穂

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