アーティストとしてご活躍中の立場から、これからアーティストとして
活動していきたい立場から、アーティストを育てていく立場から、
アート、取手、起業、それぞれの可能性についてお話をしていただきました。
田中さん
私の作品は、動きのある作品が多いんですよ。大学に入ったら好きなようにアートをやりたいという欲求があり、その欲求を満たせるのが芸大の先端芸術表現科でした。
先端芸術表現科とは、素材や技法に縛られず、新しい表現を模索していくところで、最初はさまざなな分野の要所を学んで、技術技法を習得するのですが、そこから何をするかは自由です。
絵でもない、彫刻でもない、動いている作品を作ってみたかったんですね。
大和田さん
私は学部の時、八王子にある東京造形大学の絵画科にいました。
その卒業制作をする中で、水平や垂直、重力などに興味があることに気づいたのです。でも、これをテーマにするとしたら、大きなものを制作しないと、実感が得にくく、意味がないので、大きな作品を制作しています。今までで一番大きな作品は、高さ4メートル、奥行き8メートルくらいで、制作期間は半年くらいかかりました。
野外で制作するので、天候に左右されることもあるのですが、楽しいですよ。
原田さん
私は、呪術的なものや薬と毒をテーマにした作品を制作しています。
昔からおまじないや風習などが好きなんですよ。また、薬と毒は表裏一体だと思うのですが、その振り幅みたいなものに興味があるんです。呪術、薬、毒というと、おどろおどろしく思われるのですが、わりとポップですよ。
私は、高校3年生までは文学部に行きたかったのですが、センター試験が終わった直後に、先端芸術表現科の卒業・修了作品展を見て、すごい感銘を受け、浪人して芸大を受験しようと決めたんですよ。
富田さん
僕は油絵の具を使用し、ゼロ、無の状態のものに光と影を作り出していくという作品を制作しています。
僕はもともと取手出身で、20歳過ぎから絵を始めたんですよ。大学は京都だったのですが、取手をしばらく離れて、帰ってくると空きテナントや空き家が増えていたんです。
でも、その風景を見たときに悲しいという気持ちと同時に、ギャラリーや美術館のホワイトキューブ、ただの白い壁しかないような状態に見えて、単純に綺麗だなと思えたんです。
空きテナントを「潰れた」と考えるからネガティブに感じるのであって、「これから始まる」と考えたらポジティブだと感じられるんです。この何か始まる前のゼロ、無を感じる状態に描きたいと。
そして描き進めて厚みを持った絵の具は光と影を作り出すんです。
富田さん
子供の時から絵が好きだったのですが、中学・高校のときは「絵を描く男なんかダサい!」と思って、やらな
かったんです。
それから絵のことは忘れていたのですが、20歳になって中学時代の担任の美術の先生に会ったときに、当時絵が好きだったことを思い出して、楽しかったことをもう一度やってみたいと思い、大学を目指しました。
みなさんは、取手でアート活動をされていますが、取手はアート活動をしやすい街だとお感じですか?
大和田さん
私の場合、場所ありきの作品になっているので、芸大の取手校舎は敷地が広くて、ぴったりですね。
富田さん
広いスペースが確保できて、東京に行きやすいのは大きなポイントですね。
アートをする人たちの活動拠点は基本的に東京が多いと思うんですよ。その東京までのアクセスが良いのは大きい
ですね。
そのわりに家賃も安いですよね。東京までの距離が同じくらいの都市の中
で一番家賃が安いそうなんですよ。
田中さん
芸大生、アーティストが多いっていうのも、他の街に比べると恵まれたところなんじゃないかな。
一人で作っていると、気が滅入ることもあります。同じように作っている人がいれば、刺激になるのではないでしょうか。
でも、閉じこもって制作したいときもありますし、人に見せたいときや、意見を聞きたいときもあります。距離感、バランスが
難しいなと思いますね。
原田さん
取手に住んで6年目になるのですが、車の免許を持っていないんですよ。
大きなものを運ぶとき、業者さんに頼むとお金がかかっちゃうので、バスの運転手さんに運ぶのを手伝ってもらうこともあります。取手は良い街だなと感じますね。
取手には、アーティストに手を差し伸べようという雰囲気があるのでしょうか。
大和田さん
私は取手に来て、まだ1年くらいで取手のことをあまり知らないのですが、バスの運転手さんが手伝ってくれることにビックリですよ。
大和田さん
ですよね。でも手伝ってもらいたい気持ちは分かります。
取手駅から芸大までが遠いので、活動するにしても車の免許がないと厳しいですね。取手でやっていくなら、自分の足を確保しないとダメだなと。
制作時間がスクールバスの運行時間に左右されることになりますし。
富田さん
僕は油画科だったので、上野校舎にいたこともあるのですが、上野だと荷物を運ぶのが大変でしたよ。
新宿にある画材屋さんまで行って、そこから電車で戻るのですが、大きな荷物を持っていると、他の乗客に嫌な顔されるので、バスや電車に乗りづらいんですよ。
取手だと車があれば、大きな画材でも車に積んで帰ってくれば楽ですね。
ちなみに、芸大生で起業・独立する方の割合はどれくらいですか?
田中さん
アーティストになることを起業・独立と考えるならとても多いと思いますよ。
富田さん
最初の1年目はそれくらいで、2年、3年、4年と経つうちに、淘汰されていきますよ。
アートだけで収入を得て生活するのはかなり難しいですね。僕もアルバイトをしたり、辞めたりです。
自分の展覧会が入るとアルバイトを辞めて、間が空くとアルバイトをやらなければいけないということの繰り返しですね。
修了しましたら起業・独立したいと考えていますか?
大和田さん
修了しても制作を続けたいですね。しなきゃいけないという感じですかね。
今は目の前の制作に打ち込むことが起業・独立につながると考えています。修了までの時期は、本当にしたいことなのか自分に問いかけて確かめる時期なのかな。
大和田さん
私の場合、広いスペースが必要なので、取手は選択肢に入ってきますね。
家賃が安くて、広い土地がありますから。他の選択肢としては、外国を考えています。アートに対して寛容で、受け入れる体制ができているところも多いんですよ。
私のような作品は日本では難しいと感じていて。そう考えると、外国のほうがもっと可能性が広がるのかなって思います。
富田さん
東京造形大学のまわりの立川などはどうですか?
大和田さん
土地が広くて、大学があって、取手と似ている雰囲気なのですが、そこで活動を続けていこうという気持ちにはならなかったですね。
私が経験した中では、取手は日本で一番ですね。
原田さん
私も起業・独立したいですね。勤めるのは想像つかないですから。
せっかく芸大に来たので、自分で開拓していくのもいいんじゃないかと。ひとつのことをずっとやるよりは、いろんなことをしたいタイプなので、自分で仕事を生み出せたらと考えています。
最初はすぐに引っ越すつもりだったのですが、取手は親しみやすくて気に入っていますので、活動を続けるなら取手近辺かな。
空きテナントが多い、アートだけで生活するのは
難しいなどというお話も出ました。
アートと取手の可能性について、どのようにお考えですか?
富田さん
先ほど、取手から東京に行きやすいという話がありましたが、その逆も言えると思うんですよ。
東京の人が芸術を観るために来やすい環境でもあるはずですよね。アーティストを目指す若い方たちも集まってきてくれたら、もっと活気づくんじゃないのかな。
取手の街はかなり可能性を秘めていると思いますよ。
田中さん
アート作品を見てもらって、いろんな考え方があるんだなと知ってもらうだけでも、取手が変わる気がしますね。
こういう人もいて、こういう作品もあって、こういう活動も行われているということを知ってもらいたいですね。
大和田さん
ただ、茨城県と聞くと、東京の人は遠いって感じますものね。
上野から電車で45分くらいなのに。なかなかイメージは変わらないのかな。
富田さん
本当に靴が好きな人は、靴を作っている工房を見たいということと同じように、アートの生産者を見たいとなったら良いですね。
イギリスのノーザンプトンという街は、高級靴の製造業者が集中している街で、世界中の人が訪れるんですよね。
取手が「アーティストの街」になればね。
田中さん
たくさんの人を引き付けるより、コアな人を引き付けるほうが良いかもしれませんね。
富田さん
それから、空きテナントをもっとアートで使えばいいと思いますね。
他の街では、空きテナント問題の打開策は難しいかもしれないですが、取手は可能性があると思いますよ。
空きテナントをアーティストに開放するのも一つの方法ですよ。
原田さん
茨城県は、イメージがあまり良くないですが、イメージを変えるのがアートの役割だと思っています。
フリーマーケットをしたときにブルーシートが見えるか見えないかで売り上げが変わったんですよ。
視覚的な効果は大きいですよね。アートでイメージを変えることができるんじゃないかと思いますね。
アートで起業する可能性が見えてきたところですが、時間と紙面に限りがございます。
取手を元気にするために何ができるかをこれからも考えていきましょう。
今日は、ありがとうございました。