大学卒業後しばらくは先輩の建築事務所を手伝い、その後実家の離れに事務所を構えてほそぼそと仕事をしていました。 転機が訪れたのは1982年ごろ。現場で職人が作業するために必要な施工図を作る仕事を受けるようになったのです。設計図を基に、より詳細な情報を落とし込んで細かく指示をするのですが、とにかく鍛えられましたね。でもそうして作った図面が建物として出来上がっていく点に、建築の仕事の面白さを再確認しました。
85年の「つくば科学万博」ではパビリオンの施工図も作成したんですよ。7年ほど施工図の仕事を続け、34歳の時に新たに今の場所に事務所を構え、少しずつ住宅の設計に移行していきました。
当時は金銭的に余裕があったわけではありません。事務所の建築費用もあまり掛けられず、できるだけローコストに仕上げました。このときの経験から、少ない予算でも「本物」の家を建てたいと考えるようになりました。私の考える「本物」とは、無垢フローリングや塗り壁など自然の素材を使い、光や風を十分に取り入れた快適に過ごせる家のこと。また、「庭がどう見えるか」「光がどう入るか」など、間取り図では分からないけど実際に住んでみて気付く「心地よさ」も大切にしています。
この「コストを抑えていいものを」という提案は住宅だけでなく、例えば工場や公共施設などでも実現したいと思案中です。良いデザインで心地よい空間をリーズナブルに建てられないか…そのために今、人の輪を広げているところです。
「好きなことを続ける」
私の好きなこと=仕事です。物理学者に憧れた時期があったほど理数が得意。絵を描くのも大好きで学生時代は美術研究部に所属していました。この2つを生かせるのが建築家という仕事です。今でも休みの日は1日家にいることはなく、現場や仕事場で過ごしています。